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不思議なこと

平成26年1月24日(金)
長いこと診療していると、どう考えていいのか不思議なことが起きることがある。患者さんを診る場合、症状に対してその原因を見つけ治療するが、ストーリーが納得できるのが普通であり、そうでなければ診断も治療もできない。妊娠に関して言えば、排卵があり受精し着床すればHCGというホルモンが分泌され、このホルモンに反応するように作られた妊娠検査薬が陽性になる。正常妊娠ならHCGの分泌量は日ごとに増えていき、受精後3週間経てば子宮内に直径1センチ弱の胎嚢とよばれる袋が見えてくる。4週間経てば心拍が確認できるようになる。一方、受精卵の細胞分裂がうまくいかなくなったらその時点で妊娠の進行が止まり、一定の期間を経て流産が始まる。だから正常妊娠でも子宮外妊娠や流産でもその一連の流れが理解できるように進行するものである。
最近この流れがどうしても理解できないケースがあり、一体どう解釈したらいいのかわからないことがあった。30年以上診療していて初めてのことである。もう少し時間がたてばわかってくることもあるかもしれないが、現時点ではストーリーが納得できない進行である。いつも思うのだけれど生物のしくみはうまくできているが、わからないことだらけである。

二水会の講演

平成26年1月16日(木)
広島市を中心とした産婦人科医師の勉強会「二水会」で高知大学形成外科講師、栗山元根氏の講演があった。帝王切開などの手術の創部をきれいに縫合する技術の講演で、実際に豚の皮を使っての実演があり興味深く聞いた。
「二水会」は母校の大先輩が広島市民病院勤務の時に始めた勉強会で、毎月第2水曜日(第3水曜日のこともある)いくつかの病院が順番に当番幹事になって行われてきた。最近は2カ月に1回になっているが、今回で319回!という非常に長く続いてきた会である。興味深い話も聞けるし、講演の後の懇親会が情報交換、親睦を兼ねているのでできるだけ出席するようにしている。この会に参加してもう23年になるが、初めの頃は年上の医師が多かったのがいつの間にか自分が結構年配になってしまっている現実がある。まことに月日が経つのは早いものだと感じた次第である。

沢木耕太郎著「無名」

平成26年1月10日(金)
著者は20代の頃からノンフィクションの分野で佳作をいくつも著し、当時から注目し愛読していたライターである。「若き実力者たち」「敗れざる者たち」「人の砂漠」「テロルの決算」など夢中で読んだものである。最も面白かったのは「深夜特急」で、著者が書くという仕事を始めて4年目にユーラシアからパリへの長い旅に出た時の体験を書いたものだった。特に旅を始めたばかりの香港、マカオ、インドなどでの体験は、当時の自分も若かったのでまるで自分がそこにいるかのように感じられ興味深く読んだ。
その後、著者のエッセイなどを時々読んでいたが、デビューの頃の鮮烈さは薄れていた。そうしているうちに壇一雄未亡人の一人称話法に徹した作品「壇」を発表し、改めて注目するようになった。そして2003年にこの作品「無名」が刊行された。これは無名の、一市井の人として亡くなった著者の父親の人生の軌跡を、病床の父を見守りながら、幼少時からの記憶を掘り起こして書き綴ったものである。著者の父親に対する心情と父親の息子に対する気持ちが伝わってきて、心が洗われる思いがする。まことに稀有な作品である。

謹賀新年(平成26年)

平成26年1月4日(土)
毎年1月4日から診療スタートすることにしている(4日が日曜日なら5日から)。今日は土曜日、明日は休みだけれど本日から診療開始である。いつもながら休み明けは心技体が整うまでに時間を要する。それでも午前中には完全復活、矢でも鉄砲でも持ってこいという心境である。
元旦は護国神社へ初詣、おみくじは末吉。3日は故郷へ帰る途中、山陽道が通行止めのため2号線を迂回したが故障車のため大渋滞、いつもの倍時間がかかった。新春からあまり縁起が良くないのがいささか心配ではある。昨年からの腰痛は完治していないけれど気持ちをいれかえて納得の年にしたいものである。

平成25年をふり返って

平成25年12月27日(金)
今年もあと1日、土曜日で診療終了になるのでこの1年のクリニックをふり返ってみた。
新患の人数は1年でほぼ千人でこれは開業以来多少の変動はあるけれども16年間変わらない。以前は電話帳を見てくる人が多かったが今はネットに替わってしまっている。恐るべしネットの力である。
産経新聞に連載している内科の医師によれば、患者さんで一番多いのは健康診断(人間ドック)だそうであるが、当院は産婦人科という科の性質上若い人が多く健康診断が少ないのはありがたいことである。というのは、健康診断による寿命の伸びが証明されていない現在、健診の一環で来院される人が気の毒だと思うからである。また、老化による変化は緩和することはできても元に戻すことは難しく、そういった患者さんが多いと治せないことのストレスがたまると思われるが、それもない。今年はやや中絶術が増えたが均すと例年どおりで、ピルを求める人は着実に増えている。
今年の最大のトピックは、近藤誠医師の理論が静かな広がりをみせていることである。彼の理論どおりの医療になると、大きく医療の内容が変わると思われる。当院の行っている医療は彼の理論に沿った部分が多く、このままのやり方でいくことができる。ありがたいことである。
いずれにせよ今年一年ありがとうございました。みなさまに感謝。

世界はだいたい日本の味方

平成25年12月20日(金)
表題は新潮45、1月号の特集である。日本に住んでいる外国人から見た日本という国と日本人について、14人のさまざまな国の人たちが書いている。さらに3人の中国人の若者が匿名で日本について話し合う。日本に対して好意的な人を選んでいるのだろうが、実際彼、彼女たちが言っていることは的を射ている。曰く「すべてがそろっている奇跡の国」「この国にいると心穏やかになれる」「日本はいい国である」「世界に誇る伝統文化とお出し汁の味」「スイスにはない楽しさと自由」「ありがとうとお互い様の心」「やさしい人々が住む安全な国」「緑豊かな自然、四季を感じる暮らし」など。
ロシア、欧米の国々が開国をせまり、それまで鎖国を貫いていた徳川幕府も外国と付き合わざるを得なくなった。レベルの高いこれらの国々に対処するために、明治以降日本人は一生懸命頑張ってきたと思う。それまでの日本の制度をいったん白紙に戻し、議会制民主主義を取り入れ憲法、民法などすべてを欧米にまねて作り上げ、さらに工業化も進めた。その後色々なことはあったが、世界の多くの人たちがうらやむような現在の国を作り上げてきたのである。
「世界はだいたい日本の味方」というのは、隣国の日本に対する敵意と仕打ちを苦々しく思っている多くの日本人への激励の言葉だろう。心強いことである。

製薬社員の子宮がんワクチンの論文

平成25年12月12日(木)
報道によると子宮頸がんワクチンを販売する外資系の製薬会社の社員が、同社の所属を示さず、講師を務めていた東京女子医大の肩書のみでワクチン接種の有用性を紹介する論文を発表していたことがわかった。この論文は、ワクチン接種の費用が多くかかっても、発症や死亡をおさえることによる利益が上回るとした内容である。これらの論文を参考にして厚労省はワクチン無料接種の方針を打ち出したという。
製薬会社が自社の製品を、たとえ法外な値段でも利益のために売ろうとするのはあたりまえである。問題なのは、このワクチンが本当に癌による死亡を減らすことができるのか不明のまま、学者や官僚、政治家がこのワクチンを導入したことである。さらに、万が一効果があるとしてもワクチンの法外な値段になぜ異を唱えないのか。国民の税金を使ってたいした効果も期待できないものを焦って導入したあげく、副作用が想像以上にあったので一時中止にするとは。二重の意味でスカタン(古い言葉です)である。
現在、ワクチン接種が中止されていることは同慶の至りである。

腰痛再び

平成25年12月6日(金)
11月の初め頃の朝、イスから立ち上がろうとしたら腰に違和感がある。持病の腰痛を予感させる違和感、その日はとにかく腰に負担をかけないようにした。それから1カ月、日常生活に問題はないがスポーツは無理なので運動は歩くことだけである。情けないが仕方ない。
腰痛とのつきあいは長く、30代のぎっくり腰以来ゴルフが自分にとって最悪だったと思う。40代でゴルフの練習に熱中していた頃、コンペの最中に歩けなくなり仕事は這うようにしてなんとかこなしたが、治るのに半年かかった。ゴルフは二度とやらないと思っていたのに、のど元過ぎればなんとやらで数年後ちょっとやってみたが、やはり腰に違和感があったので一旦中止。遊びのテニスをやっていたが、このスポーツは無理をしない限り問題なかった。
一昨年、またもや懲りもせずゴルフを始めようと思い立ち、道具をそろえ練習をしコースに出ることにして半年後、うたた寝の姿勢が悪かったのか腰痛再発、ゴルフどころではなく仕事の合間はすべて横になって過ごさざるを得なくなった。自業自得である。心底ゴルフを始めたことを後悔して、生涯二度とゴルフはしないと誓ったが、もう遅いのかもしれない。神様も「おまえみたいな何度も凝りないアホはこらしめてやる」とばかり、腰痛という魔の手からのがれられなくなるのかもしれない。

妊娠中の蛋白尿について

平成25年11月29日(金)
北海道大学産婦人科教授、水上尚典氏の表題の講演があった。以前は妊娠中の蛋白尿、むくみ、高血圧を妊娠中毒症といっていたが、現在は妊娠高血圧症候群という病名になり、高血圧と蛋白尿を症状とする疾患として対処されている。この疾患の怖いのは、胎盤の早期剥離がおきることで、そうなれば胎児ばかりか母体の命も危いことである。
人間の体はバランスが大切で少しでもバランスが崩れると取り返しのつかないことになる。ある域値まではなんとか正常に働いているが、域値を超えて症状が進むと回復不可能になる。妊娠によるこれらの病態は妊娠を中止すること、つまりお産にもっていくことで治るのであるが、域値を超えてしまうとそれでも回復できなくなる。蛋白尿が先行して高血圧になる場合は妊娠高血圧腎症になりやすく、妊娠中の蛋白尿を軽く見てはダメである。
多くの妊娠は順調に経過するので、いたずらに心配することはないが一旦バランスがくずれてしまうと上記のような事態になるかもしれない。妊娠、出産は最も大切なめでたいことであるだけに危険と隣り合わせで、よりいっそうの慎重な対処が必要だと思ったことである。

現地同門会

平成25年11月22日(金)
岡山大学の平松教授を迎えてシェラトンホテルで産婦人科広島同門会が行われた。毎年、この時期に開催され、平松教授による大学での最近の話題などの講演がある。かつて岡大は中四国に関連病院をたくさん持っており、教室から医師を派遣していた。どの県にも多くの同門の医師がいて、広島県では広島市、福山市の2か所で現地同門会が行われていた。そのほか各県でもこの時期に会が開かれるので、教授は大変だっただろうと思う。現在も同じように開催されてはいるが、医局制度が変わり産婦人科の入局者数も減って、今までのように各地の病院に医師を派遣できなくなってしまった。その結果、若い医師が減って会員の高齢化が進んでいる。
広島市では広島市民病院、広島赤十字病院、逓信病院、中電病院は岡大から医師を派遣していた。今は広島市民病院と逓信病院だけになってしまった。これは時代の流れであるが、かつて自分が高知県、香川県、兵庫県などの病院に派遣され、貴重な経験ができたことが現在の診療につながっていることを思うと、医局制度を含めた体制のうつろいがさみしい。