平成29年7月28日(金)
国立成育医療研究センターの斎藤英和副センター長による表題の講演があった。女性の結婚年齢は20代前半の場合が最も子供を持ちやすく、結婚年齢が高くなるほど難しくなる。20代前半の生涯不妊率は5%であるが、30~34歳で15%、35~39歳で30%、40~44歳で64%にもなる。また、女性の妊娠しやすさは22歳を1とすると30歳で0,9、35歳で0,6、41歳で0,2である。さらに妊娠に至るまでの期間も20代で6か月、30代で10ヶ月かかり、挙児を希望した時点での男性の年齢も若い方が早い。ヒトは男女とも加齢に伴い妊娠する能力が減弱し、また妊娠中や分娩時のリスク、出生時のリスクが増加するので、妊娠・出産・育児は20代が適している。
日本は不妊大国で体外受精などの治療が急増しており、人口比で米国の4倍の数になっている。また治療の高齢化が著しく進んでいて40歳以上の患者さんが半数近くを占めている。さらに1児を出生するためにかかる不妊治療の費用も高額になり1治療30万円として40歳で370万円、45歳で3780万円、47歳で2億3千万円かかるという。卵子や卵巣の保存であるが、母体の生理的老化・病気のため無駄になる可能性があること、初期採卵・凍結で100万円かかり卵1個の年間管理料1万円で多数の卵の保存が必要なための経済的負担が大きいこと、子育てが高齢までかかり老後破産の心配があることなどの問題があることを話された。
いずれにせよ早く結婚するしかないのだが実はこれが一番難しいのである。我が国には昔から「お見合い」というすばらしい制度があり、年頃になれば自然に見合いして結婚していたが今はほとんどなくなってしまった。少子化を防ぐにはこの制度を復活させるのが最良ではないだろうか。
カテゴリー 日誌
男女の妊娠適齢期と生殖補助医療
「科学者とあたま」
平成29年7月21日(金)
表題は物理学者で随筆家、寺田寅彦の著書で偶然丸善で見つけた。寺田寅彦といえば「天災は忘れた頃にやって来る」という警句で知られている明治11年生まれの今から言えばはるか昔の人である。なぜ興味があったかといえば夏目漱石の「吾輩は猫である」の主人公苦沙弥先生の愛弟子、水島寒月のモデルが寺田寅彦だということで、作品に描かれている寒月氏の不思議な味のある人柄が面白かったからである。
随筆の内容は「手首の問題」「科学者とあたま」「自画像」「線香花火」「烏瓜の花と蛾」などそれぞれ日常生活、手近なことから始まって、深い知識と音楽・美術を愛する姿勢、緻密な頭脳から紡ぎだされる思考が見事な厚みのある作品になっていて、これほど内容の濃い随筆はこのところ読んだことがない。中でも「津波と人間」は著者55歳の時の作品で、昭和8年3月3日の早朝、東北日本の太平洋海岸に津波が押し寄せて多くの人命が失われたことについてリアルタイムで書いている。物理学者である氏は、その27年前、明治29年に起きた三陸大津波とほぼ同じ規模の自然現象がくりかえされたのも考慮して、昔から何度も繰り返して起きているのであれば住民は備えなければならないはずであるが、実際はなかなかそうならないと書いている。発生時は記念碑を建てて警告していても、いつの間にか忘れてしまうことについてなぜそうなるのかを考えている。まるで3,11東日本大震災による津波とその被害を予言しているかのようで驚いたことである。
いずれにしても寺田寅彦というすばらしい先人がいたことに気づいたので、氏についてもっと著書を集めてみようと思った次第である。
産婦人科開業地図の変遷
平成29年7月14日(金)
袋町に産婦人科クリニックを開業して20年になるが、その間に周辺の開業地図にかなりの変化があった。高齢のため廃業した施設、開業を止め再び勤務医になった先生、病気のためやむなく閉院した施設、継承者がいなくて廃業した施設など、なくなった施設もあったがそれ以上に新たにできた施設が多かった。新規のお産をする施設はごくわずかで、増えているのはお産をしないビルクリニックばかりである。広島市とその周辺でざっと10以上の新規開業があり現在も増えている。個人でお産の施設を開業するのはじつに大変で、膨大な初期投資を回収するためにはたくさんのお産をしなければならないが、そうなると24時間休む暇がなくなるのでよほど精神的肉体的にタフでないとできない。
自分が病院に勤めていた時は夜お産で起こされるのがつらく、翌日は睡眠不足のために忙しい外来や手術をこなすのが大変だった。若く元気だったからできたのだが40歳を過ぎた頃からこのままでは体がもたなくなるだろうと思うようになった。幸い縁あってこの地にビル診を開業させてもらって夜お産で起こされることがなくなった。今もお産をされている施設には本当に感謝しているが、新規開業される先生方もきっと同じ思いなのだろう。この先どのような変化があるかわからないが、お産をする施設は最も大切なのだけれど過酷なため増えることは期待できないと思う。大切にしなければならない。
「がんばれ!猫山先生」
平成29年7月7日(金)
表題は産婦人科医師で漫画家の茨木保氏が「日本医事新報」に連載している4コマ漫画である。この雑誌は開業医の多くが購入している週刊誌で、創刊は1921年、実に長く続いている医学雑誌である。勤務医だった頃、病院の図書室で医学誌を調べているとき偶然見つけて読んでみると、専門的なことから一般のことまで幅広い記事が載っているだけでなく、巻末に求人広告や求縁希望などの欄があり面白いので以後時々読んでいた。開業後は月刊の医学雑誌の購読はしていたが、廃刊したものや内容が今一なのでやめたものなどあるが、「日本医事新報」だけは止めずにずっと購読している。
「がんばれ!猫山先生」は産婦人科医の茨木氏自身が開業した後になかなか経営が軌道にのらない苦労などを漫画に託して描いていて、多くの読者の共感を得ているのである。さらに氏のやさしさとギャグの面白さが秀逸で、新規開業の前に読んでおくべき本の一冊に推薦されている。毎週1話が載っているが100話を超えるごとに1冊にまとめられて発売され、今回で第5巻がめでたく発売された。開業医をしながらよく毎週描けるものだと感心しているが、雑誌が届くと初めに読むのはこのマンガでいつもほっとする気持ちになる。ファンとして氏にはずっと掲載を続けてほしいものである。「がんばれ!茨木先生」
タバコ問題
平成29年6月30日(金)
受動喫煙について規制強化が議論されている。WHOは世界各国の禁煙環境について4つのカテゴリーに分けているが我が国は一番下の4番目だそうである。ただし、このカテゴリーに入っている国は世界中で70ヵ国あり、G7では5つの国がこの中に入っているそうである。つまり歴史のある欧州各国を始め多くの国はタバコに寛容なのである。禁煙を最も推進しているのは禁酒法を創ったことのある米国で、このところ我が国もこれに従っていて次第にタバコが吸えなくなっている。病院敷地内禁煙をはじめ公共施設内禁煙はあたりまえで、街中でも吸える場所を探すのが大変なようである。
自分が若い頃は大人になれば酒・タバコがあたりまえで、むしろ成人のあかしのような時代であった。マージャン・パチンコの場は煙がもうもうと立ちこめていて、今から思えばじつに不健康なところであったが何とも思わず過ごしていた。時は移り今から15年前に禁煙してからは煙のない快適な生活をしているが、ごくたまに今一服つけたらうまいだろうなと思うことがある。喫煙していてやめた人ほど禁煙運動に邁進する傾向があるが、迷惑さえかけなければご自由にというのが自分のスタンスである。タバコは体に良くないのは確かだと思うが良い点も多々あり、今のように魔女狩りのごとく規制するは反対だ。歴史のある欧州や我が国ではタバコは文化として根付いていて、江戸時代から金唐皮の煙草入れ、様々な形のキセル、さまざまな根付などの製造が昭和初期まで続いていたのである。これらの職人的遺産は今では博物館でしか見られない。いずれにせよもっと寛容にした方がいいと思う。
日本地図2017年版
平成29年6月23日(金)
本屋で立ち読みしていたら成美堂出版の上記の地図本を見つけた。政治・経済・産業から文化・スポーツ、社会・交通などさまざまな分野の情報を都道府県ごとに分けて示していて、わかりやすいので思わず買ってしまった。
広島県は面積は11位、人口は12位であり総人口286万人のうち広島市に119万人が住んでいる。一人当たりの県民所得は306万円で10位、学力テストも10位だそうである。意外だったのは日本酒の生成量で1位は兵庫(灘、他)2位が京都(伏見、他)3位が新潟でわが広島(西条、他)は10位だったことである。先日も千葉から来られた教授との会食で「3大日本酒生産県の広島・西条の酒をどうぞ」と勧めていたが訂正しなければならない。
がん罹患率(死亡率ではない)では女性が全国4位、特に乳がんが4位なのは検診が他県よりもしっかり行われているからだろうか。大学等卒業者の就職率は広島は5位であるが耕作放棄地率は全国3位である。ちなみに1位は山梨、2位は長崎である。他にも高速道路のガソリンスタンド空白区間だとか最高速度引き上げ(110km~120km)の区間はどこかなど面白いことが満載である。
厚労省の出している「国民衛生の動向」はきちんとした緻密な資料であるが、この地図本のようなわかりやすいものもいいと思う。
「更年期障害治療を極める」
平成29年6月16日(金)
東京歯科大学市川総合病院産婦人科教授、高松潔氏の表題の講演があった。最近は更年期障害に関する講演はあまりなかったので興味を持って聞いたが、そもそも更年期障害に対してホルモン補充療法(HRT)が欧米で推奨され我が国でも普及が始まった矢先、WHIが推奨しないという発表をして以来、HRTは下火になっていた。それでも実際に効果があるので広がりはしないけれど確実に行われてきた。
最近、「HRTは乳がんに関与する頻度は低い」という知見が欧米で発表され再びHRTの普及が始まっているという。閉経以後、女性ホルモンは急激に低下するがそれに伴う全身の変化は一口で言えば「老化が進む」ということである。生物はおしなべて生殖期間が過ぎれば命が終わるけれど、ヒトは1900年頃から寿命が延びてきて閉経後の期間が長くなってきた。日本人女性の平均寿命は85歳なので、30年以上女性ホルモンの枯渇した時期が続くことになるがその間ずっと女性の脳下垂体からは、卵巣から女性ホルモンを出せという指示が出続けるのである。女性ホルモンの不足は生命には直接関係しないが、生活の質にはおおいにかかわる。ホルモンが不足すると骨がもろくなる、肌の潤いがなくなる、性交痛がおきる、コレステロール値が増えるなどの変化がおきる。さらに、ボケやすくなるとか血管のしなやかさが失われやすいという指摘もある。
面白かったのはHRTは止め時を考えなくてよいということだった。以前は閉経後10年位は使えるということだったが死ぬまで使えるとはありがたい。また、漢方薬が本当に有効なのかと調べた研究ではプラセボも漢方薬も症状改善率は同じだったということで、思わず笑ってしまった。漢方薬信仰の人には悔しい結果だろうが事実は曲げられない。いずれにせよ興味深い講演であった。
梅雨入り?
平成29年6月9日(金)
例年より少し早い「とうかさん」も終わり、7日には中四国地方も梅雨入りしたとの報道があった。7日は雨だったとはいえもう梅雨入り?ほんとかなと思ったが、今日は一転して夏のような日差しだ。先日故郷へ帰った時に見ると、平地に広がる田んぼは一面耕されていていつでも水が入れば田植えができるように準備されていた。広島の北部ではほとんど田植えは済んでいるようだけれど、故郷では梅雨を待って田植えを行っていたことを思い出した。梅雨入りしたのなら今頃は田植えが始まっているのかなと思ったが、こんなに天気が良い日が続くと田植えができるのか心配になる。水がなければ田植えはできないからだ。
今は機械で田植えをしているが、自分が小中学生の頃は稲の苗を一株ずつ手で植えていた。小学校の同級生のほぼ全員が自分も含め農家の子なので、この時期は田植えの手伝いのために「農繁休暇」があり学校が休みになった。梅雨の雨降りに合わせて一斉に行われるので3日ぐらい休みになっただろうか。田植えは結構きつい仕事でイヤだったが仕方ない、早く終われと思いながら手伝いをしたものである。クラスに一人くらいは勤め人の子供がいて田植えをしなくていいのをうらやましく思ったものである。それも今は昔、故郷では田を作る人がいなくなって一部の人に頼まざるを得なくなっているようだ。
カルテ庫の整理
平成29年6月2日(金)
カルテを置く場所がなくなりカルテの整理を始めている。受付のとなりにカルテが1000人分(しっかり入れれば1500人分)入る棚が4つあり、そのうちの2つの棚は直近の人のために使うので、1000人分が一杯になったら古いものをカルテ庫にしまって新たに棚を空けねばならない。この作業は開業してからずっとやってきたことであるが、6000人を超えたあたりからスペースがなくなり別の置き場所に移すことになった。開業前には先輩から「カルテ庫と物置ははたっぷり取っておけ」と聞いていたので自分としてはそのようにしたつもりだったがやはり全然だめだった。現在カルテ番号は2万を超えているので、古いカルテは処分しないとどうしようもない。医師法ではカルテの保存期間は5年となっているが、いつ来られてもいいようにカルテはできるだけ長く保存しておきたい。それでもさすがに古いカルテは処分しなければスペースがなくなっている。電子カルテならスペースはあまり必要ないだろうが、紙カルテの方が一目で経過がわかり使いやすいので替える気はない。
古いカルテを見ていると、一度だけ来られて以後二度と来てない人や何年間か来られていてその後来てない人、いろいろ思い出されて感慨深いものがある。できればすべて保存しておきたいと思うのだが…。もちろんレセコンにデータは保存されているが、生カルテがなくなるのはつらいものである。
新潮45特集「私の寿命と人生」
月刊誌新潮45は興味深い記事が結構見られるので注目しているが、6月号の特集「私の寿命と人生」は共感することが多かった。著名人たちの現在の状況や死生観などが述べられているが、医師で作家の久坂部羊氏による「実際の長生きは苦しい」は高齢者医療に携わっている氏の本音であり腑に落ちる内容である。元気のままで長生きできると思っている人が多いがそれは夢想であり、実際は体が弱り機能が衰え、生き物としてダメになっていくのを実感するのが長生きだという。がんにせよ心臓・脳血管障害にせよ老化によるものなので自然の寿命なのである。それをなまじ病院などに行けば無理やり死を遠ざけられ想定外の苦しみを味わうことになる。病院に1,2か月通っても良くならなければ医療は無力とあきらめたほうがいいという。作家で津田塾大学教授、三砂ちづる氏の「末期ガンの夫を家で看取る」も、昔から生まれるのも死ぬのもあたりまえのように家で行われていたことで、生も死も身近なものだったのだと実際に夫を家で看取ることで実感したという。夫は痩せてしまい食べられなくなっていたが、最後まで今日死ぬとは思っていなかったと思うし、亡くなるその日まで普通に話して心を通わせることができ、そしてふっと向こうに行くように死が訪れたという。
特集の最後に102歳で現役のフォトジャーナリスト笹本恒子氏を紹介している「100歳の肖像」という記事は、それまでの普通の人の老いの困惑、寿命についての記述と比べてあまりの違いに驚いた。笹本氏は100歳を超えても元気で仕事をしており、あの有名な現役医師、日野原氏と双璧をなす生命力があり、まさに持って生まれたものという他はない。寿命にはさからえないとあらためて思った次第である。