カテゴリー 日誌

稲作の危機

平成18年5月10日(水)
朝から雨が続き、さすがに患者さんの出足がよくなかった。その分、診察の合間に書類書きや紹介状作成その他雑用仕事がはかどるのは喜ぶべきか悲しむべきか。
先日の連休に鳴門まで車で行ったがもう田植えの準備をしているところがあった。私の田舎では梅雨の頃に田植えをするのが普通なので、ずいぶん早いと思ったものだが今から植える種類もあるのだろう。この頃は田舎ではもう稲を植える人がいなくなり、田を持っている人はその処置に困っているという。放置すれば雑草が生えて他の田の持ち主に迷惑がかかるし、そうだからといっても稲作をするには年を取ってしまっている人が多いのである。これは私の田舎だけのことでは なく、全国的なことだと思う。日本の伝統、日本たる所以である稲作が消えつつあることは由々しき問題である。

やたらと増えた休日

平成18年5月6日(土)
今日はまだ連休のところが多いが当院は暦どおりなので、いつもの土曜日と同じで午後5時まで営業した。
このところやたらと祝日や休日が増えて、我が国の休める日は世界で最も多いとか。ところが有給休暇の消化率は世界最低で、フランスやドイツなどはほぼ 100%使うのため祝日が少なくても結果的には多く休んでいるという。日本人は休むのは罪悪だと考える伝統があるので、休日や祝日を多く作って罪悪感なしに休めるようにしたのだろうか。昔から盆と正月は文句なく休めたし、戦後はゴールデンウイークができて横並びに休んでも許されるようになったからこうなっ たに違いない。
健康な人が休むのは罪悪であるという考え方は、我が国のような資源の少ない国には必要なことだったのだろう。

メーデーに思う

平成18年5月1日(月)
今日はメーデーなので、診察室の窓をほんの少し開けると、風に乗ってスピーカーからの演説の声が聞こえてきた。
元来、共産主義、社会主義は資本家や独裁者にしいたげられた人々への平等な富の分配のために考えられた思想であった。主にインテリ層が中心となって信奉してきた。問題は、この思想が一個人の頭脳から興ったものであり、自然発生ではなかったことである。人間観察、人間理解が足りなかったというしかないが、世界中でその思想は破綻した。わずかに残っているその世界は、一党独裁で人々を武力で抑えることによって存続しているにすぎない。人々を幸せにするために考えられた思想が、その思想に反対する多数の人々を粛清しなければならないとはなんと不幸なことであろうか。それこそが、その思想の致命的な欠陥というべきであろう。さらに、粛清して権力を得た人もいつのまにか私利私欲に走るようになる。歴史を見れば必ずそうなっている。だからそういうこともすべて織り込ん でどういう社会にしていくのかまで考えて作らないと、結局世の中を不幸にする。社会制度は一朝一夕にできるものではないし、それぞれの民族の歴史の延長に あるものだからだれかがどうかしたからといって変えられるものではない。
ありがたいことに我が国には共産主義も、独裁主義も根付かなかった。元来、合議によって政治が行われてきた世界でもまれな安全でレベルの高い国だったので、すんなりと議会制民主主義が根付いたのである。もちろん欧米のそれとは少し異なり日本風にアレンジしてあるが。じつにすばらしいことである。

さわやかな日

平成18年4月28日(金)
今日は5月のようにさわやかな一日であった。こういう日を迎えると日本は四季があり緑が多いすばらしい所だと思う。この季節の移り変わりと豊かな自然が あってはじめて情緒に富んだ日本人が生まれ、日本の歴史が刻まれてきたのではないか。世界の状況をニュースや本などで知るにつけ、我々はまことにいい国に 生まれたとしみじみ思うのである。

精神科のクリニックが増えた

平成18年4月25日(火)
昨日中区袋町東地区医師の集まりがあったが、あらためてこの狭い地区に50施設以上の医療機関がひしめいている凄さを実感した。多くは個人の開業医である がそれにしても医院超密集地区である。そしてこのなかに精神科のクリニックが4施設以上あり、これからもっと増えていくことが予想されるらしい。受診され る患者さんの多くはうつ病やうつ傾向だそうで、都市部に住んだり生活していくことがいかにストレスにさらされてるか想像される。
生きていく上で競争は必要だがあまりに効率にはしるとかえってよくない。最近話題になっている「国家の品格」という本で数学者の藤原正彦氏は欧米の、特にアメリカの効率主義の弱点や欺瞞性をするどくつき、日本は欧米に追随することをやめて我が国が昔からはぐくんできた繊細で高尚な精神世界をとりもどすべきだと説いているが、まことにそのとおりである。戦後あらゆる面でアメリカを手本にしてきたつけがまわってきているのだと思う。

ピルの処方の多い土曜日

平成18年4月22日(土)
土曜日はピルの処方が多い。特に午後は連休を前にして早めに取りに来る人が多かった。ピルは我が国ではまだ普及率が低いが、一旦飲みだすと結構続けて飲む人が多い。実際に飲んでみれば副作用はほとんどないことがわかるから、普及率が低いのは飲まず嫌いなのだろう。
今日はせっかくの週末だというのに雨なのはうっとうしいことだが春雨だと思えば風情も感じられる。来週末から大型連休だが当科は暦どおりである。

黒鉄ヒロシ著「毎日クローがねえ」

平成18年4月19日(水)
診療日誌を始めてもう2年になる。このように長くなると、次第に書くネタに困るようになってくる。
昔、黒鉄ヒロシという漫画家の「毎日クローがねえ」という秀逸なエッセイ集に次のような話があった。「漫画を連載しているといつもアイデアを出すのに苦労 する。アイデアはいいものから順に、ダイヤモンド、金、銀、銅、石ころと称しているがプロなら最低でも銅でなければならない。でも時に石ころのことがあ り、これが続くと掲載中止になり生活の糧が絶たれ路頭に迷う。とはいえなかなかいいアイデアは浮かばず、さんざん苦労してやっと深夜に金だ!と思っても翌 日になってみるとせいぜい銅のことが多い。ただ長年やっていると銅のあり場所はだいたいわかっているので、いいアイデアが浮かばない時はそこへ行って取っ てくる」とのこと。
私の場合はプロでもないしこの日誌を見る人は少ないと思われるが、なんとなくその感覚がわかるような気がする。つまり、ネタがないときはあそこへ行けば何 かあるぞという場所が2年も書いているといくつか見つかっているのである。でもだれにも教えてやらない(だれも聞いてこないか)。

危機に直面する産婦人科医療

平成18年4月15日(土)
先日「危機に直面する産婦人科医療」と題した元広大産婦人科教授の講演があった。聞くほどに気持ちが沈んできた。産婦人科の将来は実に暗く、産科にかかわる医師は減少の一途をたどっているらしい。隠岐島の産科がなくなったニュースは耳新しい話であるが、広島周辺で産科を中止した病院はかなり見られる。産科はいつ生まれてもいいように24時間待機しなければならないし、お産で夜起こされても翌日は朝から通常医勤務が普通である。加えて訴訟の比率が最も多い科である。ではせめて報酬がいいかというと他科と変わらない。これでは新しく産婦人科を選ぼうとする医学生がいるはずがない。
最近も激務によるストレスの所為か脳出血や脳梗塞になった産婦人科医を何人か知っている。一生懸命頑張ってきた結果がこれでは浮かばれない。今必要な解決法はお産の費用を適正にすることである。適正ということは今より高くすることである。先進国の中で日本の分娩にかかわる費用はは安すぎる。いまどきホテルに3食付で1週間も泊まればいくらかかるだろう。お産はそれに加えていつ生まれてもいいように24時間待機して分娩に全責任をもち、生まれた後は母親と新生児の両方のケアをしてせいぜい40万円である。アメリカでは1日入院で100万円だそうでこれなら医師も3交代せめて2交代でできるし、麻酔科の医師と小児科の医師も立ち会って安全なお産ができるだろう。安全のためのコストを確保できるだろう。お産の数も今の半分以下にしてもやっていけるだろう。それでやっと他科の平均的な医師と同じ生活ができるようになるのである。今のままでは本当に産科はなくなってしまうかもしれない。

比治山の大新入生歓迎会

平成18年4月11日(火)
昨日から雨が続く。春雨というより大雨である。せっかく満開になった桜も散ってしまうだろう。日曜日の夕方、桜を見に比治山に行ってみたがまさに満開であった。あちこちにシートを敷いて花見客が盛り上がっていたが、広場の中央にひときわ大きなシートが敷いてありその上に飲み物やスナック菓子、オードブルなどが運ばれてきて数人の若者たちが準備に余念がない。シートの広さと食べ物などの量からざっと見ても百人以上の集まりと思われた。聞いてみると広大の新入生歓迎会で400人集まる予定とか。いったいどういう集団なのかと思っていたが納得した。

世界でも稀な国

平成18年4月8日(土)
今年も日本が世界長寿番付で1位になった。男女合わせての平均寿命が82歳だそうである。アフリカなどには平均寿命が40歳ぐらいのところも多いことを知 るにつけありがたいと思う。気候がよく緑に恵まれた日本に生まれたことを我々は感謝しなければバチがあたる。作家の曽野綾子氏がいつも書いているが、日本は世界中でもまれな安全で豊かな国なんだよと。実際ふだんはあたりまえと考えている色々なことが、他の国ではめったにないことだということはたくさんある のだろう。国民皆保険による医療の平等なこともそうである。いつでも同じ条件でどこの医療機関にでも受診できることを我々はあたりまえと思っているが、実はまれなすばらしいことなのである。