令和元年8月16日
今日から診療開始である。例年、休み明けは患者さんが多く、休みから仕事モードに移るのが結構しんどいのだけれど、今年はそれほどでもない。昨日は大型台風が広島県を縦断したが、本当に台風が来たのかと思うほど風雨は少なく、新幹線をはじめ在来線・バスなどすべて予定運休になったがその必要があったのかと思ってしまう。デパートも臨時休業になるし、甲子園も中止になった。羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くということわざがぴったりではないか。
表題は工学博士で作家の森博嗣氏の著書である。氏の趣味の模型作りの一環として始めた「ジャイロモノレール」の試作と成果を発表したものである。この装置は100年以上前に開発・実用化されたが、その技術は長く忘れ去られ再現不可能とされていた。氏は理論的には可能と考え、実験と試作をくりかえしついに完成させた。理論については氏の丁寧な解説にも関わらず自分には難しくて理解できない部分もあるが、現に完成され一本のレールの上を安定して走らせているのだから素晴らしい。
あとがきで氏は「趣味」という言葉について、欧米でのhobbyの概念と日本のそれの違いについて語っているが、日本ではレジャーやスポーツは趣味に含まれるが欧米ではそうではないという。hobbyとは紳士の嗜みとして仕事より重視されるもので、品位を形成するものとされているそうである。定年になってあわてて「趣味」を探すようなものではないのだ。そうだとすれば自分にはhobbyはあるのだろうか。
カテゴリー 本
「ジャイロモノレール」
「文豪たちの悪口本」
令和元年8月9日
表題は文豪と呼ばれる作家たちが他の作家、友人、家族、世間に対して愚痴やあてつけ、悪口など書いていて、その現存している文章や手紙、日記、友人や家族の証言を集めたものを彩図社文芸部が編集したもので、作家たちの人間的な一面が垣間見えるのが面白い。
太宰治は芥川賞がもらいたくて選考委員だった川端康成に働きかけたがかなわず、怨念の手紙を川端に書き送っている。青森の大地主の坊ちゃんの太宰治だけれど、よほど賞金が欲しかったとみえる。夏目漱石の妻鏡子に対する愚痴も面白く、妻鏡子からみた漱石についてのくだりも、漱石がかなり気難しい人だったことが伺えて笑える。文芸春秋を発刊した菊池寛への永井荷風の嫌悪は死ぬまで続いて、荷風の「断腸亭日常」には折に触れて菊池寛への非難の文章が残っている。谷崎潤一郎と佐藤春夫の書簡のやり取りも残っているが、谷崎の妻千代に恋愛感情を持った佐藤が、千代に飽きていた谷崎から千代を離縁してもらい受ける約束をしていたのに、一旦反故にされたことを恨んだ手紙のやり取りが面白い。結局、千代は佐藤春夫の妻になるのだが。
当時の作家の地位は高く、文豪と呼ばれるほどの作家はオピニオンリーダーであり、尊敬の対象であり、スターであったが、こういう文章や手紙などをみると我々と同じ凡人の面も見られて面白い。
「やっぱり高血圧はほっとくのが一番」
令和元年7月11日
表題はサン松本クリニック院長、松本光正氏の著書である。前から高血圧の傾向があって7~8年前に降圧剤をしばらく飲んだことがあったし、先ごろの尿管結石やめまいなどで高血圧になっていたので、「高血圧」という言葉に反応するようになったせいもあり読んでみた。氏の主張は、ヒトの体は自分で最もいい状態に調節されているものなので、現在の状態がそのヒトにとって一番よいのである、だから薬で調節しようとせず体重を減らすとか適度な運動をするとかストレスをためないようにするなどで、自然にその状態に応じた血圧、血糖、コレステロールになるようにするのがいいという。確かに体はそのヒトの状態に合わせて最も生きていきやすいように勝手に調節(ホメオスタシスという)してくれるので、化学物質にすぎない降圧剤で血圧だけ下げても何にもならないし、むしろ弊害が生じるかもしれない。
さらに良い医者、普通の医者、悪い医者について解説しているがまさにわが意を得たりであった。こういう人たちがいるのは心強いことであり、我が国の医療もまだ大丈夫だと思った次第である。
「健康生活委員会」
令和元年5月24日
表題は我が国の知恵の象徴ともいえる元東大医学部教授の養老孟司氏と医学界の嫌われ者、でも医師の中にも隠れファンの多い元慶応大学講師の近藤誠氏の対談本である。この二人の著書はいずれも本質をついていることばかりで、読んでいて目から鱗が落ちることが多い。
養老氏は今年で82歳、近藤氏が71歳であるが、お互いに認め合っていて気が合うようで、数年前にはそれぞれのペット(養老氏のネコ「まる」と近藤氏の愛犬「ボビー」)について対談本を出している。今回の対談はお二人の「健康」についての考え方から医療全般、「生きること」まで思いつくまま、気楽に語り合っていて楽しく読ませてもらった。
お二人の著書はほとんど読んでいるので、会話の背後にある考え方やどうしてそのように考えるようになったかなど、腑に落ちることばかりであった。かつて山本夏彦氏は「わかる人には電光石火伝わる」と言ったが、逆に言えば「わからない人には絶対に伝わらない」ということで、近藤氏の言説も医学界では無視されるのだろう。養老氏は近藤氏に対して「医学界からのストレスによく耐えましたね」といたわりを込めた感想を述べているが、そのとおりだと思う。それでも懸命に頑張っている近藤氏を優しく見守っている兄のような養老氏をこの対談から感じた次第である。
「いらない保険」
平成31年4月4日
表題はオフィスバトン「保険相談室」代表の後田亨氏と長浜バイオ大学教授の永田宏氏の共著で、生命保険・健康保険・貯蓄保険などについてこれらの保険が必要なのか、契約者が損をしていないかなどを解説している。生命保険は子供が小さい頃や家のローンが残っているときには必要だが、その心配がなくなれば必要ないものがほとんであることが結論であるが、保険会社が薦める他の保険についても詳しく述べている。
これらの内容は、生命保険に関して自分が思っていたこととほぼ同じだった。著者の後田氏は日本生命で営業職を10年勤めた経験もあり説得力のある内容であった。生命保険は特約の付かない掛け捨てが良い、最強の医療保険は「健康保険」である、貯蓄・運用目的の保険はいらない、介護保険に勝る現実的方策、など不安をあおって売り上げを伸ばしている現在の保険業界への対処法をわかりやすく解説している。不安をあおるのは現代の医療と同じ部分があり、がん検診や健康診断などはまさにそうである。がんの死亡数はほとんど変わっていないのに検査したために発見が増えているのが男性では前立腺がん、女性では乳がんと子宮がんである。多く見つかるのなら死亡数が減るべきなのに変わらないとはどういうことか。医療の世界を念頭におきながら興味深く読ませてもらった。
「孤独の価値」
平成31年3月8日
表題は工学博士で小説家の森博嗣氏の著書である。最近、本屋で立ち読みをしていて見つけた(2014年刊)。氏は名古屋大学で建築の研究と教育をする傍ら、96年「すべてがFになる」で作家デビュー、その後は着実に固定ファンを増やして2010年にはAmazon10周年記念の行事、国内でよく売れた作家20人の中に入りAmazon殿堂入りしている。現在は大学も辞めて山間の広い土地を購入して、趣味三昧の生活を送っているという。
ほぼ2年半電車には乗っていない、毎日ほとんどの時間一人で遊んでいる、家には家族も住んでいるが顔を合わせるのは食事の時と犬の散歩に出かける時ぐらい。仕事で人に会うこともめったになく、ほぼメールで済ませる。買い物は95%は通信販売、電話が鳴ってもでない(ほぼ間違い電話だから)、手紙も来ない(みんな住所を知らない)。年に数回は友人が訪ねてくるが、それはそれで楽しい。一人でする活動は、自分の庭で(林もある広大な庭でレールを敷いて、模型列車を走らせている)工事をしたり、ガレージで工作したり、書斎で読書をしたりで、日曜もなければ盆や正月もない。外泊、外食もせず徹夜もしない。
氏は時間をかけてこのような生活ができるようになり毎日楽しく過ごしているが、周りからは孤独にみえるだろう。でも実際は豊かな満足した生活を送っていることを、「絆」にとらわれてかえって不自由になっている人々に説いているユニークな著書である。
「山本七平の思想」
平成31年3月1日
表題は自分とほぼ同じ年代のフリージャーナリスト、東谷暁氏の著書である。山本七平といってもピンと来ないだろうが、1970年に「日本人とユダヤ人」という本がベストセラーとなり、そのユニークな内容に多くの知識人たちが賛同し、話題となった。その後も山本氏は、日本人独特の考え方はどこからきてどうなっていくのかをその著作を通じて表し、考えてきた。そしてその思想は死後25年以上経っていても人々に影響を与えている。山本氏のわずか20年の執筆活動がなぜこれほどインパクトがあったのかを東谷氏は検証し、時系列を追って確かめている。
実は自分も当時、山本七平氏の著作に惹かれ、出版されるとすぐ手当たり次第読んでいたので、同じ年代の東谷氏もきっと同じだったんだろうと想像するわけである。東谷氏は山本七平のユニークな考え方のルーツはどこにあるのかを考え、3代目キリスト教徒であったことが日本を客観視できた原因ではないかと記している。「空気の研究」は日本人は「空気」に流され判断を誤りやすいことを警告し、なぜそうなるのかを考えた名著である。東谷氏の著書により当時の熱狂が思い出されて懐かしいことであった。
「ワクチン不要論」
平成30年11月30日(金)
表題は内科医師でクリニックを開業しながらNPO法人薬害研究センター理事長を務める内海聡(うつみさとる)氏の著書である。氏は現場から精神医療の実情を告発した「精神科は今日も、やりたい放題」の著書もあり、医学に対して懐疑的な発言をくりかえしている。氏の発言がすべて正しいとは思わないが、納得できる点も多い。最近の小児へのワクチン接種の増加は異常だと思っていたが、海外巨大製薬会社と結びついたWHOのワクチン戦略の流れから見るとうなずける。小児に対するワクチン定期接種の本数は米国が最も多く、36本ものワクチン接種を行っている。次いで英国、スペインが20本、日本はまだ11本なのだが米国を模範とする我が国はこれから増えてくるかもしれない。さらに5歳までの死亡数は米国が最も多く、我が国は少ないのになぜワクチン接種を増やそうとするのかと訴えている。
薬害エイズのときも、米国では禁止になっていた血液製剤を海外製薬会社は平気で我が国に売って、無知な医師たちが使ってエイズに感染させたという事実がある。薬を売りまくって儲けるためなら何でもするという一面も持つのがメガファーマである。現にメガファーマの影響下にあるWHOは高血圧の異常値の基準を下げたし、高脂血症の基準も下げた。それにより病気と診断される人が増え、降圧剤・高脂血症の薬は売れに売れた。インフルエンザも昔は流感(流行性感冒)と言って、栄養をとって安静にしていれば治る「かぜ」だった。もう効きにくいワクチンなどやめたらどうだろう。
「可愛いペットの天使達」
平成30年11月8日
表題は西区で内科医院を開業している大島哲也氏が広島県医師協だよりに連載しているユニークなエッセイである。平成26年1月号から始まり平成30年11月号で45回目になる。氏は偶々夜店のくじで当たったウズラからカニまで大切に育てている様子を軽妙な文体で記していて、読んでいるとほっこりとした気持ちになる。連載第1回目からファンになったが最もたくさん飼っているのはネコで、捨て猫やノラ猫、傷ついた猫など多くの猫を場合によっては家へ帰らず付きっきりで育てている。自宅で8匹、医院で4匹、母親のところでも数匹いるようで、その後亡くなったり新たに加わったりで常に複数のネコを飼っている。それぞれのネコとの交流の経過を克明に書いていて、それぞれのネコに対する愛情が伝わってくるし、実によく観察しているものだと感心する。このような人に飼われたネコは幸せだろうなと思うし、会ったことはないけれど氏は並外れた大きな愛情の持ち主なのだと思われる。
毎回、文章に登場するネコたちの写真も掲載されているのでいっそう親しみがわくというもので、いずれまとめて本になればきっと全国で売れるだろう。もちろん自分も1冊買うだろうが。
「ツチハンミョウのギャンブル」
平成30年10月26日
表題は「動的平衡」でおなじみの生物学者・福岡伸一氏の近著で、週刊文春に連載しているコラム「福岡ハカセのパンタレイ パングロス」をまとめて加筆したエッセイ集である。それぞれの項目の内容が濃くかつユニークで、思わず引き込まれて一つ一つの話を料理を味わうように楽しんでいる。
氏は小さい頃から昆虫が大好きでそれが高じて生物学者になったそうだが、これは養老孟司氏とも共通していて二人とも生物にかかわる仕事をするようになっている。表題のコラムはツチハンミョウという昆虫がどのようにして生き残って、世代を次に伝えていくかという話である。卵から孵って巣穴から這い出してきた約4000匹の幼虫は、匂いを頼りに地上に出てくる寸前のコハナバチの巣に潜り込む。巣から飛び立つコハナバチにしがみついて花まで運んでもらったら、辛抱強くヒメハナバチが通りがかるのを待って飛び移る。ヒメハナバチは花粉を集めて花粉団子を作り、巣に持ち帰り自分の卵を産みつけて巣穴の入り口を閉じる。その時に忍び込んだツチハンミョウは孵化したばかりのヒメハナバチの幼虫を殺して食べ、花粉団子もゆっくりいただき脱皮をくりかえして成虫になる。これらの過程はすべて偶然に頼ったものなので、ほとんどはその途中に死んでしまい成虫になれるのは4000匹のうち1匹程度である。まさに壮絶なギャンブル虫生といえる。
こんな面白い話が次々と紹介されているのでやめられないわけである。