「昭和の夢は夜ひらく」

令和7年11月21日
表題は五木寛之氏の新刊である。氏は昭和7年生まれで現在93歳、週刊新潮にエッセイを連載しているが、毎回よくタネが尽きないと思う。内容は読者を飽きさせない人生の達人をおもわせる文章である。この度の新潮新書は連載中の「生き抜くヒント」から抜粋したもので、「昭和」について言及した文章を集めたものである。氏は平壌で終戦を迎えた。父親が平壌師範学校の教師をしていたからであるが、その後日本へ引き上げるのは大変だったようで、母親はその時に亡くなり、父と弟妹の4人で命からがらの帰国だったようだ。父親の実家でしばらく暮らし、苦労もあったようだが、それらを含めて氏のその後の作家としての立ち位置が決まったのではないか。それにしても今も現役で文章を連載しているとは凄いことである。田舎の風呂が五右衛門風呂で鉄の窯に直接入ると熱いので、丸い板を湯船に浮かべてその上に乗って湯船に入ったというくだりは、自分も経験しているのでそうだったなと思い出した。それらを含めて面白く読ませてもらった。