令和7年7月10日
表題は沢木耕太郎氏の作品で、第二次世界大戦の末期に中国大陸奥地まで密偵として潜入した西川一三氏の8年に渡る旅を克明に描いた力作である。
25年前に沢木氏は「秘境西域八年の潜行」を書いた西川氏に興味を持って、当時盛岡市で化粧店主として人生を全うしていた西川氏に会いに出かけた。そして淡々として生きている西川氏の人柄に惹かれ、毎月盛岡に行き夕方から3時間くらい酒を飲みながら語り合ったのである。それは1年以上続いてほぼ全行程を聞き終えたけれど、文章にするには何か踏ん切りがつかずそのままになっていた。ある日、週刊誌の「墓碑銘」の欄に「中国西域に特命潜行 西川一三さんの不撓不屈」という記事を見つけ、家族に連絡して線香ををあげに行くことにしていたが、いくつかの偶然が重なって会うことができなかった。それから数年後に家族に会うことができ、話を聞くことができた。西川氏の書いた生原稿も見つけることができたので、氏の話と照らし合わせながらその旅を克明に再現したのが「天路の旅人」である。
沢木氏の綿密な調べとわかりやすく魅力的な文章で一気に読ませてもらった。次はどうなるのだろうという、自分も旅をしているような気持にさせられる素晴らしい作品である。釜山から奉天、内蒙古から中国の西域、チベット、ネパール、インドまでヒマラヤ越えを何度も行い、ラマ僧に扮して旅を続けた。最後は同じように特命潜行していた人の密告(?)により日本へ強制送還されることになったが、氏はまだまだ旅を続けたかったと話していた。
沢木氏の作品はどれも素晴らしいが、特にこの作品は面白かった。