令和5年6月29日
表題は沢木耕太郎セッションズ<訊いて、聴く>全4冊中の第1冊である。沢木氏のノンフィクション作品はその視点と綿密な調査、対象への共感が感じられて楽しく読ませてもらっていた。特に初期の作品の「人の砂漠」「テロルの決算」を見つけた時はすごい新人があらわれたものだと興奮したことを覚えている。その後「深夜特急」をはじめ意欲的な作品を次々に生み出し、旅に関するエッセイも多数あり、読むたびに氏の人間としての美学が感じられて居住まいを正して読まなければと思わせられる。
この作品では、吉本隆明、吉行淳之介、淀川長治、磯崎新、高峰秀子、西部邁、田邊聖子、瀬戸内寂聴、井上陽水、羽生善治の10人と対談をしている。もっとも現在も活躍している人は僅かで、ほとんどの人は鬼籍に入っている。
対談は互いの人間の力量が揃わないと難しいが、氏はすべての人と肉薄した会話をしながらある距離以上には踏み込まない、いわばジャズセッションのように対話している。そのやり取りが面白く、興味深い話も出て読みだしたら止められない。実は2年前に買っていたのを今読み始めてみて、やはり沢木耕太郎はすごいと改めて思った次第である。