津田秀敏著「医学者は公害事件で何をしてきたのか」

平成17年2月22日(火)
暖かい日が続いていたが、日曜日から寒さがぶり返してきた。ついにコートが必要になってしまった。まさに三寒四温である。
「医学者は公害事件で何をしてきたのか(津田敏秀著)」という本を読んだ。
この著者は私の母校の後輩であり同公衆衛生の講師であるが、その内容の緻密さと正確な論旨、正義感と学者としての真摯な姿勢など最近読んだ本の中では密度の濃いすばらしい著書であった。こういう人物がいるかぎり、まだまだ日本も捨てたものではないと思われた。著者はまず疫学から語り始め、水俣病は食中毒事件であると看破し、初期発動の時点で食中毒として処理しておれば法律に基づいてマニュアルに沿って対策がたてられ、被害は大きくくい止められただろうことを示したうえで、その後の水俣病に関するさまざまな学者の良心にもとるような、政府・企業を利する事実を捻じ曲げた学者の発言を実名を挙げてきちんと検証して論破している。
さらに「カネミ油症事件」も同じ構造でおこったものであるとして、薬害エイズ事件に至るまでなぜ同じことがくり返されるのかを考察している。そして、学者が本来の真理探究の姿勢を忘れてしまって、保身と自己栄達のために御用学者にならないように「学者ウオッチャー」を立ち上げたらどうかと提案している。一般人、ジャーナリスト、学者、企業人、行政官など立場を問わず発言の場を作り、討論し公開していく。それにより不誠実な学者は淘汰され、能力のある真摯な学者が残っていくのではと期待している。実際はそううまくは行かないだろうが、少なくとも今までよりは良くなるのではないだろうか。著者に満腔の賛意を表するものである。