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「人体誕生」

令和元年11月15日
表題はブルーバックスから出版された北里大学名誉教授、山科正平氏の著書である。ブルーバックスは日進月歩する科学の分野を一般の人にもわかりやすく紹介するシリーズものである。「人体誕生」は直径わずか0.1ミリの受精卵が猛烈なスピードで分裂・増殖し37兆個からなるヒトになる。その過程をすべての見開きの片側のページにきれいなイラストを載せて、本文と合わせて一般人にもわかるように丁寧に説明してある。かつて学生時代に習ったけれどあまり興味を持てなかった「発生」が実にわかりやすく、当時この本があったらもっと興味を持って学習したことだろうと改めて思った。以前、順天堂大学教授、坂井健雄氏の「解剖学はじめの一歩」でも思ったことだが、優れた講義・解説は内容が難しいことをやさしく興味を持たせる力がある。「発生」も「解剖学」も医療職には必要不可欠のものであるが、無味乾燥な教科書では興味深いどころか試験があるので無理やり覚えなければならない鍛練のようなものになってしまう。それが山科教授や坂井教授の手にかかれば魅力的な講義、すばらしい本になる。「人体誕生」は歴史に残る名著ではないだろうか。

同門会広島支部

令和元年11月8日
母校(岡山大学)産婦人科同門会広島支部総会が開かれた。毎年、この時期になると教授来広のもと、親睦を深めるために行われている。かつて中国四国ほぼすべての県(徳島県を除く)に関連病院があり、それぞれの県に同門会支部がありこのような会が行われていたが、最近は関連病院も減っていて往年の盛況は望むべくもない。それでも広島県には広島支部と東部(福山)支部があり、大阪にも支部があり毎年支部会が開かれている。現在の会員数は28名(+2)なのだが、約半数は広島市民病院の医師である。中堅以上は変わらないが若い医師は転勤で入れ替わる。会員のほぼ半数は60代以上なのでこれからの発展は望むべくもない。
毎年、支部会が開かれるたびに今後どうなるのか心配になるけれど、普段は意識したこともなければ不自由を感じたこともない。だからこの会は親睦を図れてうれしい反面、現実を再認識することになって寂しい気分になるのも事実である。

「患者よ、医者から逃げろ」

令和元年11月1日
表題はキズや熱傷(やけど)湿潤療法の創始者、形成外科医夏井睦(なついまこと)氏の近著である。氏は植皮手術が必要とされる熱傷の患者でもほぼその必要がなく、傷跡も痛みも少なくキレイに治療できることを、湿潤療法を通して実践し公開してきた。だが大学病院や総合病院の形成外科や皮膚科では今も変わらずひどい治療が行われているという。氏は一人でもそのような患者が減るようにとこの本を書いた。
「なつい式湿潤療法」とは①創面は水道水で洗うのみ(消毒・洗剤などは一切使わない)②創面は乾燥させない被覆材で覆い、毎日とりかえ、水道水で軽く洗う。外用剤は白色ワセリンのみ。さらに被覆材もメーカーと協力して開発し、安く取り寄せられるようにしている。また、「素人でもできる熱傷治療」としてやり方をくわしく説明、インターネットに公開しているのでだれでも実践できる。熱傷の痛みは人類最大のストレスと言われているが、湿潤療法ではほぼ痛みはなくなる。なぜそうなるかも詳しく説明しているので納得できる。氏は他にも「傷はぜったい消毒するな」などの著書があり、「なついキズとやけどのクリニック」院長として治療を行っている。すばらしい医師だと思う。

偶然見つけた店

令和元年10月25日
自転車通勤していると途中のビルや店の移り変わりが身近に感じられる。並木通りから旧広テレ方向に向かう途中に、和風料理店に改造している場所があった。しばらくして医会の会合の時に広島の店に詳しい先生から「先生のクリニックの近くに新店ができたらしいけど行きましたか」と聞かれ、あの店だとひらめいた。
その店のすぐそばにある「こけもも」へ行った際に聞いてみたが知らないとのこと。「こけもも」は洋食なので和食の店は関心がないのかと思った。前を通ってみると入り口の床を丁寧に拭いている女性がいる。声をかけてみると、奥から主人らしい人が現れ、「9月20日に開店したばかりです」と名刺をくれた。「元念 瀬川」という店で広島で勢力を広げている「笹組」出身とのこと。早速予約して4人で行ってみたが、接客も料理も申し分なく値段もリーゾナブルで再訪したくなる店であった。「こけもも」も今のように世に知られる前に偶然見つけた店だが、この店もそうなるように思う。偶然とは面白いものだ。

風水害

令和元年10月18日(金)
大型台風が中部・関東地方を直撃し激しい雨のために甚大な被害が起きている。今日も再び雨量が増えるという。ここしばらくは自然災害が続いているが一体この国はどうなっていくのだろうか。周辺の国との危機も現実になるかもしれないうえに東日本大震災、九州に続いて中国地方の水害、そしてこのたびの風水害である。南海トラフの地震もほぼ確実に起きるというが、もし起きれば日本は壊滅する。
近代になり都市化が進んだ日本は電気が止まっただけでパニックになり機能不全におちいって1週間ともたないだろう。道路は分断され交通マヒが起き、食料不足は当然のこと病院の機能もなくなる。かつてベストセラーになった小松左京著「日本沈没」が現実になるかもしれない。都市化が進むほど自然災害に弱くなる。東北地方の津波の時もそうだったが、常に「想定外」のことが起きる。昔から「地震、雷、火事、親父」というが親父の権威が落ちた今では「親父」の代わりに「水害」を入れた方が正しい。日頃から危機に対する対策は考えておくべきだが、実際にところはどうしようもないと思う。そうなったらケ・セラ・セラである。

「トップ屋魂」

令和元年10月11日
表題は広島県府中町生まれの作家、大下英治氏の自叙伝である。副題は「首輪のない猟犬」2012年発行、散歩の途中立ち寄ったBook Offで見つけたので読んでみると実に面白い。広島大学を卒業して業界紙の記者になり、すぐに週刊文春のトップ屋と称する第一線のジャーナリストとして活躍するようになった。その記事「三越の女帝・竹久みちの野望と金脈」は三越の社長・岡田茂氏の失脚のきっかけになった。この時の取材のありさまなどが書かれていて、文字通り手に汗握るようで、高校時代からジャーナリズムにも興味を持っていた自分としては、氏のたどってきた道を書いたこの本は実に面白く、一気に読んだ。
氏は1歳の時に被爆したが、その時広島市内にいた父親は亡くなってしまい、母親は女手一つで3人の男の子を育てた。極貧の生活で氏は中学卒業後は三菱広島造船所で溶接工として働き、のちに広島大学に進み多感な青春時代を過ごした。元来は作家志望で在学中に広島師範学校出身の梶山季之氏と知り合ったのも、のちにジャーナリストになる伏線だったのかもしれない。氏のように苦労して身を起こしひとかどの人物になった話は好きである。そういえばスタンダールの「赤と黒」も高校時代に読んで印象的だった。最後は破滅するが…