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1年を振り返って

平成29年12月28日
診療は明日29日まで行う予定であるが、この1年を振り返ってみた。診療内容に関しては例年と変わらないが新患が増えていて、ここ数年この状態が続いている。
開業以来、一般的には行われているが、しなくても変わらないような検査や治療は、患者さんの精神的・身体的負担を減らすためにもやらずにこれたのはありがたいことであった。再診についても本当に必要な人だけに来てもらうができるだけ来院せずに済むようにして、検査の結果などは電話ですませるようにしている。それにしても生理不順を心配して来られる人の多いこと。特別な場合を除いてその人それぞれの生理周期は変えることはできないし、変える必要もないことをもっと周知すべきである。それを生理不順は不妊につながるなどと脅すから皆心配するのである。また切迫流産の薬は有用でないので出さないし、漢方も出さない。もちろん本人に薬が有効でないことを詳しく説明しても、それでも希望する場合は処方するけれど。考えてみれば自分は薬の処方量が最も少ない医者ではないだろうか。
ピルについては避妊のためにも生理痛を軽減するためにも、また将来の妊娠のために子宮・卵巣をいい状態にしておくためにもできるだけ勧めるようにしている。いずれにしても開業前からの診療の姿勢は一貫しており、ぶれずに来られたのは僥倖でありこれからもこのままやっていきたいと思っている。
皆さまありがとうございました。良い年を!

緊急避妊ピルについての考察

平成29年12月23日(金)
最近、緊急避妊ピルを求めて来院される人が多いが、どの程度効果があるかは本当のところよくわからない。ネットなどでは大いに効果があるように書かれているが、実際のところ排卵・受精を少し多めのホルモン内服で確実に防げるとは思われない。50~80%は有効と言われているが、毎日飲む低用量ピルの有効率99%と比べれば失敗率は高い。フランスで開発されたRU486ならほぼ完全に着床を防ぐけれど我が国には入っていない。
何もしない場合、どのくらい妊娠するのか考えてみよう。簡便のため女性の生理周期を28日として、月経期間を7日間とすると妊娠可能期間は21日となる。この期間のうち妊娠する確率が高いのは排卵日とその前の7日間で、実際には5日くらいである。その5日間以外では妊娠しないわけだから75%は妊娠しないことになる。ところで妊娠率の最も高いと言われている排卵日にセックスした場合でも妊娠率は30~40%である。多めに見積もって5日間すべて30~40%の妊娠率として計算しても、21日間で考えれば妊娠率は7,5%~10%になるので10人のうち9人は薬を飲む必要がないことになる。だから緊急避妊ピルを飲んだから防げたと思っている人の中には、飲まなくても妊娠していない人も多いと思われる。安易な処方は慎まなければならない。

 

子宮内膜症治療の講演

平成28年7月29日(金)
慶応義塾大学産婦人科、阪埜浩司講師による講演があった。最近では子宮内膜症の治療は手術よりも薬物療法が中心になっているというが、それは病気の性質上手術しても再発が多いからである。薬物療法のメインは低用量ピルを中心としたLEPであり、リュープリンやディナゲストなどのホルモン療法である。これは子宮内膜症が病気として認識され、病因が解明され、治療法が確立され始めたころからあまり変わっていないようである。
かつて1980年代に「子宮内膜症研究会」が発足し、いまは一学会に昇格しているが、子宮内膜症は不妊との絡みもあり女性にとって重大な疾患に位置付けられていた。私自身も初期の頃から研究会に参加していて治療に関していろいろ試みた結果、十数年前に我が国でやっと低用量ピルが解禁された時から私自身は子宮内膜症に対する第一選択の治療法として皆さんに勧めてきた。つまり、現在のLEPを中心にした治療をずっと前から最も副作用の少ない最善の治療としておこなってきたわけである。また、生理痛が強い女性に対しても、子宮内膜症や子宮筋腫がなくても低用量ピルを勧めてきた。さらに避妊に対して最も有効で副作用の少ない最良の方法であることを話して極力ピルを推奨してきた結果、当院では現在多くの人がピルを服用するようになっている。
今になってピルの連続使用も推奨され始めているが、当院では以前から連続使用しても問題ないと説明している。連続使用というのは、3週間飲んで1週間休むという従来の飲み方ではなく、休薬期間なしで3ヶ月以上飲んで1週間休むことで、生理は休んでいるときに起きるので3ヶ月に1回になり子宮内膜症にはいっそう有効で、避妊が目的の人にも有用である。
今まで私自身が考えた結果当たり前だと思いずっとやってきたことを、遅ればせながら学会が推奨し始めたという印象の話であった。

新しいエコー装置

平成28年4月4日(月)
産婦人科の診断で最も有用なのは超音波(エコー)装置で、もしエコーの機器が故障したら仕事にならない。妊娠の診断は子宮内にある胎嚢と胎児(胎芽)をエコーで確認し、大きさを測り妊娠週数を推定する。胎児の発育・異常の有無を診断するには必須である。不妊症では、卵胞の大きさ、子宮内膜の厚みを測定して排卵日の予測をするなど最も大切な検査を担っている。また、子宮筋腫の位置・大きさ、子宮内膜症の有無、卵巣嚢腫の性質・大きさの測定にも欠かせない。超音波診断装置のない時代は内診によって診断しようとしていたのであるが、どんな名人でも内診だけでこれらのことを正確に診断することは不可能である。
診療中に超音波診断装置が故障したらまさにお手上げになるので、予備として新しいエコー装置を買った。現在使っている装置は解像度もよく使いやすいので、同じ系列の機種を求めたのだが、どうも今一つである。設定条件のせいなのかメーカーの人に調整してもらっているがなかなか難しい。現在の装置と同等になればいいと思っているのだけれど。

子宮頸がん検診の間隔

平成28年3月25日(金)
以前は毎年行うことになっていた子宮頸癌検診の間隔が、HPV検査の導入により大幅に延びるようになってきた。米国での30万人の追跡調査では、子宮がんの原因と言われているHPV(ヒトパピローマウイルス)がいなければ、5年間での異常発見率は0,17%であり、従来の細胞診による発見率0,36%より優れていることがわかった。そのため、検診間隔を3~5年にすることが可能と発表している。スウエーデンでも従来の細胞診単独よりもHPV検査単独、あるいは細胞診との併用により検診間隔を5年以上延長することが可能との調査結果を示した。
すでにHPV検査単独法を導入しているオランダでは、30代は5年間隔、40~60歳では10年間隔で子宮癌検診を実施している。オーストラリアでも3年毎だった細胞診を、来年から5年毎のHPV単独検査法に変更する予定だそうである。また、子宮がん検診の年齢の上限も、欧米ではおおむね60~70歳としている。
わが国ではドックなどでは細胞診を毎年行っているし、市町村の検診では2年ごとになっていて年齢の上限もなく、世界の流れからははずれてきている。早急に女性の負担を減らす方向に変えていくべきだと思う。

産婦人科の薬

平成27年10月2日(金)
先日、いま最も多く処方されている産婦人科の薬のベスト10を知る機会があり驚いた。私が使っていない薬ばかりである。ベスト1は子宮収縮抑制剤(流早産防止の薬)で注射ではプラセンタ製剤だったのである。
つい最近にも書いたが、30数年前に産婦人科教室に入局した時に「切迫流産には止血剤と子宮収縮抑制剤を処方する」という決まりがあった。まだ超音波検査がない時代で、それらの薬が効果があるかもしれないと思われていた時代である。その後、流産の原因は妊卵の細胞分裂の異常によることがわかってきたので、これらの薬の有効性に疑問を持つようになった。流早産は自然の流れで起きるので、薬でどうなるものではない。まして外来で内服薬を出したぐらいでは止められないし副作用もあるので、患者さんが「何か薬を飲んだ方が精神的に落ち着くので出してくれ」と言わない限り処方していない。またプラセンタも薬として認可されてはいるが、生物製剤だし効果については?なので使わない。
他にも突っ込みどころ満載の薬がいっぱいあり、逆に面白かった。厚労省は薬の使用量を減らそうとしているようだが、私みたいな医者ばかりになると薬の使用量は激減して薬屋さんはあがったりになるだろう。

不思議なこと

平成26年1月24日(金)
長いこと診療していると、どう考えていいのか不思議なことが起きることがある。患者さんを診る場合、症状に対してその原因を見つけ治療するが、ストーリーが納得できるのが普通であり、そうでなければ診断も治療もできない。妊娠に関して言えば、排卵があり受精し着床すればHCGというホルモンが分泌され、このホルモンに反応するように作られた妊娠検査薬が陽性になる。正常妊娠ならHCGの分泌量は日ごとに増えていき、受精後3週間経てば子宮内に直径1センチ弱の胎嚢とよばれる袋が見えてくる。4週間経てば心拍が確認できるようになる。一方、受精卵の細胞分裂がうまくいかなくなったらその時点で妊娠の進行が止まり、一定の期間を経て流産が始まる。だから正常妊娠でも子宮外妊娠や流産でもその一連の流れが理解できるように進行するものである。
最近この流れがどうしても理解できないケースがあり、一体どう解釈したらいいのかわからないことがあった。30年以上診療していて初めてのことである。もう少し時間がたてばわかってくることもあるかもしれないが、現時点ではストーリーが納得できない進行である。いつも思うのだけれど生物のしくみはうまくできているが、わからないことだらけである。

心ない言葉

平成22年10月2日(日)
当院でピルを処方している患者さんが、職場の婦人科健診のために健診施設を受診したところ、異常を指摘されたと不安そうに来院された。担当の医師が「腹水がたまっているので詳しい検査が必要だ」、「あなたの卵巣は小さいから妊娠は難しいかもしれない」と言ったという。本人は驚いて「かかりつけの病院があるので」と、あわてて当院に来られたわけである。
分娩歴もあり、婦人科の異常はないことを確認していたので、おかしいと思いながら診察したところ、確かにダグラス窩に少量の腹水は認められた。でも、後屈子宮では構造的に腹水の存在がわかりやすくなるだけで、異常とはいえない。また、卵巣についてもピルを使用していると排卵が抑制されるのでやや小さくなることはあるが、ピルを中止すればすぐに元にもどる。その旨お話したら安心されたのでほっとしたが、こんなことで患者さんを不安にさせた医師に対して思うことがあった。
医療の目的は治療を含めた「癒し」だと思うが、これが本当に難しいことは日々感じることである。それでも少なくとも、患者さんが不安な気持ちになるような言葉は慎んでもらいたい、と強く思ったことである。

人工妊娠中絶術について

平成23年9月5日(月)
人工妊娠中絶術と流産の手術は開業後多件数行っているが、毎回特に注意力を集中して行う手術である。一番大切なのは子宮頸部と子宮腔をわん曲に合わせて拡張するところであるが、この時に注意しないと穿孔の危険がある。さらに内容を排出させる場合、組織が残ってはダメだしかといって必要以上に掃爬しても子宮内膜が薄くなるので、この加減が難しい。鈍匙の指先に伝わる感覚が大切である。麻酔薬の量も人それぞれ微妙に効き方が違うので、その時の状態に合わせて量を調節している。手術を終えたら超音波で確認して終了とするが、それでも組織の一部が遺残することがある。ほとんどの場合は自然に排出されるが、時間がかかる場合はお話して再掃爬させていただく。
この手技は産婦人科医にとっては基礎の中の基礎ともいうべきものであり、ベテランの医師にとってはありふれた手術である。だからこそ30年間この手術をやってきた自分でも、いつも初めての時と同じように気持ちを引き締めて行うのである。

無排卵周期症とピル

平成23年2月23日(水)
先日、ストレスから体重減少がおこり、生理不順になり4年間治療しているという若い女性が来院した。現在は体重も戻り、毎月、排卵誘発剤を処方されているそうである。今月は薬を飲んでないので心配だとのこと。
診察してみると、排卵も済んでおりもうすぐ生理が来る状態になっている。これなら今後、排卵誘発剤は必要ないし、このまま様子を見ていいですよとお話ししたが、不満の様子でもう来院しない光線を出して帰られた。
生理は毎月あるのが当たり前で、なければ治療しなければならないと思っている人が多いと思う。医師でもそう思っている人がいるだろう。
そもそも排卵・月経は妊娠するためにある。体調維持に必要なホルモン量はもっと少なくていいのである。毎月、卵巣は排卵という大きな変化をおこし、排卵出血・卵巣腫脹などの危険ととなりあわせになっている。子宮は、卵巣からのホルモンにより内膜を肥厚させ、受精した卵を受け入れる準備をして、妊娠がなければ剥がれて出血し、これを生理という。生理も生理痛が強かったり、量が多くて貧血になったり大変である。
これらのことはすべて妊娠するための変化である。現在妊娠する意思のない人は、極端に言うと排卵しなくてもいいのである。妊娠したいときだけ排卵すればいいのであって、ヒト以外の哺乳類では発情期にのみ排卵し、妊娠するものが多い。
人類は近年、排卵誘発剤とピルという作用の相反する2つの薬剤を手に入れた。ピルは排卵を抑制し、ホルモンレベルを必要最小限に近い状態にする。それにより上記の危険な卵巣の変化や苦しい月経に伴う症状から解放されるようになった。安全性は非常に高い薬剤である。さらに卵巣がんの発生率が1/2になるという。
上記の人にわざわざピルを飲めとは言わないが、なにも排卵誘発剤を処方する必要はないだろう。経過観察でなにか不都合でもあるのだろうか。