カテゴリー 本

「旅する力」

平成30年2月15日(木)
表題はノンフィクション分野で活躍している作家、沢木耕太郎氏の長編エッセイである。かつて氏の名作「深夜特急」をワクワクしながら読んだことを思い出して読んでみた。「深夜特急」は氏が20代の時にインドからパリまでバスを乗り継いで行ってみようと思い立ち、その行程を記した青春記とも言うべき著作であるが、なぜ氏がそのようなことをしようと思ったのかなどが詳細に書かれていて、腑に落ちるところが多かった。体力と気力の充実した若い頃に知らない土地を訪ねて見分を広めるのは素晴らしいことで、まさにその時しかできないことである。中学生の頃に読んだ小田実氏の「なんでも見てやろう」という本も、外国に行くことが難しかった時代にフルブライトの特待生でアメリカに留学して世界を回ってきたことを書いたものだが、当時は別の世界のことのように感じたものだったが、「深夜特急」は大人になってから読んだので共感するところが多く、実に楽しめた。
氏の初めての旅は小学校3年生の時、遊びに行って食事をごちそうになった友人の家で、「マツザカヤへ行くことになっているので」と母親に言われて家に帰ったけれど「マツザカヤ」というところへ自分も行きたくなって、わずかな小遣いを持って駅に行き人に尋ねながら「松坂屋」にたどりついたことだった。それ以来、中学・高校・大学時代に様々な旅をしてきたことを読むと、「深夜特急」に行きつくのも当たり前だと思ったことである。その時にしかできないことをするのはすばらしいことである。

「手を洗いすぎてはいけない」

平成30年1月26日(金)
表題は東京医科歯科大学名誉教授、藤田紘一郎氏の著書である。氏は寄生虫博士として自ら腸の中にサナダ虫を寄生させて「寄生虫はアレルギーを防いでくれる」ことを実践してみせたことで知られている。表題の新刊書は日本が超清潔志向になった結果、免疫力が弱くなってしまっていて、このままだと感染症に世界一無力の国になってしまうことに警鐘を鳴らしている。インフルエンザが春など季節外れに流行したり、ノロウイルスなどの感染力の弱いウイルスに感染し嘔吐下痢などをおこすのも日本人全体の免疫力が落ちているからだという。
ヒトは生まれた直後から微生物と共に生きているというが、実際ヒトの体は9割が細菌でヒトは1割だという。ヒトの体は約37兆個の細胞からできているが、ヒトに住み着いている細菌の数は100兆個以上いて、それぞれが遺伝情報を持っている。一方、ヒトの細胞37兆個のうち遺伝情報を持つのは11兆個で26兆個は遺伝情報を持たない赤血球である。つまり、遺伝情報を持つ細胞の数でいえば、9割が細菌、1割がヒトということになる。ほとんどは大腸菌で100兆、歯垢(プラーク)に1兆、唾液に1000億、肌に1000億だそうである。
細菌と共に生きている我々が超清潔志向になっても意味がないし、免疫力が弱くなるだけだという内容には大いに説得力がある。

田中小実昌ベストエッセイ

平成30年1月12日(金)
魅力的な人物の評伝に興味があるので本屋で見つけると買うようにしている。最近、直木賞作家の田中小実昌氏のエッセイ集を見つけたので読んでみた。氏が色々な雑誌に書いたエッセイを年代を追ってまとめたもので、オビの「コミさんの入門編にして決定版」とあるように、実に面白く読ませてもらった。
氏は私の父親とほぼ同年代の作家というか自由人で、75歳で亡くなっているがその飄々とした風貌と振舞いが雑誌などで紹介されていてなぜか気を惹かれていた。エッセイによれば、氏は月のうち5日ほど仕事をして、あとは昼は映画、夜は新宿ゴールデン街に入り浸っていたようでまことに自由である。氏の父親は牧師で呉に教会をつくりそこで少年期を過ごした。短期間であるが招集されて軍隊にも行っているが戦後、東京大学文学部哲学科を中退して翻訳などをしながら生活していつの間にか作家として認められている。ドイツ人の医師と結婚してドイツに住んでいる娘さんのところや、親戚のいるアメリカにも行き来していて最後はアメリカで客死しているが、こういう人を「達人」というのではなかろうか。

「ワクチン副作用の恐怖」

平成29年11月17日(金)
表題の本は、孤軍奮闘して医学界に警鐘を鳴らし続けている近藤誠医師の最新刊である。この本を知ったのは、医師たちの多くが入っているメーリングリストで例によって近藤医師の本を誹謗中傷する意見が多く見られたので、逆に興味を持ち取り寄せてみたからである。
以前から近藤医師は膨大な医学論文を検討したうえで、患者のためにならない検査・治療はすべきでないといい続けているが、大半は無視するか氏の主張を読まないで反論するかだった。かつて山本夏彦氏が「わかる人は電光石火わかるが、わからない人にはいくら話してもわかってもらえない」と述べていたが、そのとおりだと思う。近藤医師の言うことを認める医師は少なからずいると思うが、大勢はなかなか変わらない。ワクチンが有用だった時代は確かにあったが、現在の日本で果たして今の膨大なワクチンが必要なのか。副作用があってもそれ以上に有用なのかを本当にきちんと検討したうえで使っているのか、氏の本を読むとかなり怪しいと思われる。
ワクチンを世界中に広めるのはWHOの方針であり、WHOのバックには巨大製薬会社がついていることは周知のことである。我が国の医学界がWHOの方針に振り回されて、ワクチンの副作用による犠牲者を出すことだけはしないように冷静に考えてもらいたいと思う。

「うなぎ」浅田次郎編

平成29年9月8日(金)
カープの対阪神3連戦はすべて逆転勝利となって、今日は雨も上がりさわやかな秋晴れで気持ちがいい。
表題は10人の作家、歌人による「うなぎ」をモチ-フにした作品集である。歌人の斎藤茂吉は特別にうなぎ好きだったそうで、息子の北杜夫も茂吉のうなぎ好きについてエッセイで紹介している。ちなみに茂吉が生涯に食べた蒲焼きの回数を調べて書いた書物(文献 茂吉とうなぎ)まであるほどで、1万8千首の歌を詠んだ大歌人はうなぎについての歌をいくつも詠んでいる。他にも井伏鱒二をはじめそれぞれの作家のうなぎに対する思い入れが文章から感じられ、読んでいて大いに共感を覚えうなぎが食べたくなった。
うなぎの蒲焼きは米飯とまことに相性が良く、日本人の食文化の結晶といっても過言ではないと思う。ふるさと納税の返礼品ではうなぎのかば焼きは上位の人気である。自分は「うなぎ屋たむろ」の蒲焼きが好きで手軽に食べられるので重宝している。最近、食べログで東区光町に新しくできたうなぎ屋を見つけた。かつてそごうにあった「伊勢定」に勤めていた人が広島に帰って開いた店だそうで早速行ってみた。この店「うなぎ川誠」は伊勢定をほうふつとさせるふわっとした食感と焼き加減で、たれも甘すぎない実に結構なうなぎだった。また行こうと思う。

「科学者とあたま」

平成29年7月21日(金)
表題は物理学者で随筆家、寺田寅彦の著書で偶然丸善で見つけた。寺田寅彦といえば「天災は忘れた頃にやって来る」という警句で知られている明治11年生まれの今から言えばはるか昔の人である。なぜ興味があったかといえば夏目漱石の「吾輩は猫である」の主人公苦沙弥先生の愛弟子、水島寒月のモデルが寺田寅彦だということで、作品に描かれている寒月氏の不思議な味のある人柄が面白かったからである。
随筆の内容は「手首の問題」「科学者とあたま」「自画像」「線香花火」「烏瓜の花と蛾」などそれぞれ日常生活、手近なことから始まって、深い知識と音楽・美術を愛する姿勢、緻密な頭脳から紡ぎだされる思考が見事な厚みのある作品になっていて、これほど内容の濃い随筆はこのところ読んだことがない。中でも「津波と人間」は著者55歳の時の作品で、昭和8年3月3日の早朝、東北日本の太平洋海岸に津波が押し寄せて多くの人命が失われたことについてリアルタイムで書いている。物理学者である氏は、その27年前、明治29年に起きた三陸大津波とほぼ同じ規模の自然現象がくりかえされたのも考慮して、昔から何度も繰り返して起きているのであれば住民は備えなければならないはずであるが、実際はなかなかそうならないと書いている。発生時は記念碑を建てて警告していても、いつの間にか忘れてしまうことについてなぜそうなるのかを考えている。まるで3,11東日本大震災による津波とその被害を予言しているかのようで驚いたことである。
いずれにしても寺田寅彦というすばらしい先人がいたことに気づいたので、氏についてもっと著書を集めてみようと思った次第である。

「がんばれ!猫山先生」

平成29年7月7日(金)
表題は産婦人科医師で漫画家の茨木保氏が「日本医事新報」に連載している4コマ漫画である。この雑誌は開業医の多くが購入している週刊誌で、創刊は1921年、実に長く続いている医学雑誌である。勤務医だった頃、病院の図書室で医学誌を調べているとき偶然見つけて読んでみると、専門的なことから一般のことまで幅広い記事が載っているだけでなく、巻末に求人広告や求縁希望などの欄があり面白いので以後時々読んでいた。開業後は月刊の医学雑誌の購読はしていたが、廃刊したものや内容が今一なのでやめたものなどあるが、「日本医事新報」だけは止めずにずっと購読している。
「がんばれ!猫山先生」は産婦人科医の茨木氏自身が開業した後になかなか経営が軌道にのらない苦労などを漫画に託して描いていて、多くの読者の共感を得ているのである。さらに氏のやさしさとギャグの面白さが秀逸で、新規開業の前に読んでおくべき本の一冊に推薦されている。毎週1話が載っているが100話を超えるごとに1冊にまとめられて発売され、今回で第5巻がめでたく発売された。開業医をしながらよく毎週描けるものだと感心しているが、雑誌が届くと初めに読むのはこのマンガでいつもほっとする気持ちになる。ファンとして氏にはずっと掲載を続けてほしいものである。「がんばれ!茨木先生」

日本地図2017年版

平成29年6月23日(金)
本屋で立ち読みしていたら成美堂出版の上記の地図本を見つけた。政治・経済・産業から文化・スポーツ、社会・交通などさまざまな分野の情報を都道府県ごとに分けて示していて、わかりやすいので思わず買ってしまった。
広島県は面積は11位、人口は12位であり総人口286万人のうち広島市に119万人が住んでいる。一人当たりの県民所得は306万円で10位、学力テストも10位だそうである。意外だったのは日本酒の生成量で1位は兵庫(灘、他)2位が京都(伏見、他)3位が新潟でわが広島(西条、他)は10位だったことである。先日も千葉から来られた教授との会食で「3大日本酒生産県の広島・西条の酒をどうぞ」と勧めていたが訂正しなければならない。
がん罹患率(死亡率ではない)では女性が全国4位、特に乳がんが4位なのは検診が他県よりもしっかり行われているからだろうか。大学等卒業者の就職率は広島は5位であるが耕作放棄地率は全国3位である。ちなみに1位は山梨、2位は長崎である。他にも高速道路のガソリンスタンド空白区間だとか最高速度引き上げ(110km~120km)の区間はどこかなど面白いことが満載である。
厚労省の出している「国民衛生の動向」はきちんとした緻密な資料であるが、この地図本のようなわかりやすいものもいいと思う。

新潮45特集「私の寿命と人生」

月刊誌新潮45は興味深い記事が結構見られるので注目しているが、6月号の特集「私の寿命と人生」は共感することが多かった。著名人たちの現在の状況や死生観などが述べられているが、医師で作家の久坂部羊氏による「実際の長生きは苦しい」は高齢者医療に携わっている氏の本音であり腑に落ちる内容である。元気のままで長生きできると思っている人が多いがそれは夢想であり、実際は体が弱り機能が衰え、生き物としてダメになっていくのを実感するのが長生きだという。がんにせよ心臓・脳血管障害にせよ老化によるものなので自然の寿命なのである。それをなまじ病院などに行けば無理やり死を遠ざけられ想定外の苦しみを味わうことになる。病院に1,2か月通っても良くならなければ医療は無力とあきらめたほうがいいという。作家で津田塾大学教授、三砂ちづる氏の「末期ガンの夫を家で看取る」も、昔から生まれるのも死ぬのもあたりまえのように家で行われていたことで、生も死も身近なものだったのだと実際に夫を家で看取ることで実感したという。夫は痩せてしまい食べられなくなっていたが、最後まで今日死ぬとは思っていなかったと思うし、亡くなるその日まで普通に話して心を通わせることができ、そしてふっと向こうに行くように死が訪れたという。
特集の最後に102歳で現役のフォトジャーナリスト笹本恒子氏を紹介している「100歳の肖像」という記事は、それまでの普通の人の老いの困惑、寿命についての記述と比べてあまりの違いに驚いた。笹本氏は100歳を超えても元気で仕事をしており、あの有名な現役医師、日野原氏と双璧をなす生命力があり、まさに持って生まれたものという他はない。寿命にはさからえないとあらためて思った次第である。

「文豪の素顔」

平成29年5月12日(金)
表題の本は写真をふんだんに使って明治・大正・昭和の文豪と言われる作家たちのエピソードを紹介したもので、既刊の「文豪の家」「文豪の風景」に続くシリーズ第3作である。樋口一葉から山本周五郎まで31名の作家について掲載しているが、見たことのない写真がたくさんあり結構楽しめる。芥川龍之介自身が気に入っていた若き日の写真はテニスの錦織圭選手にそっくりだったり、宮沢賢治と妹トシの幼い頃の写真とその妹が教師になったころの写真(その後すぐに亡くなるのだが)など興味深いものが満載である。
現在では「文豪」という言葉は使われなくなったのでこの言葉に違和感のある人は多いと思う。「文豪」という言葉にふさわしい作家の筆頭は夏目漱石だろうが、確かに当時の最高の頭脳を持ったオピニオンリーダーであり、人生を深く見つめ身を削るようにして作品を発表し49歳で亡くなったがいまだに根強い人気がある。掲載されている31名の作家で長命の人は少なく、樋口一葉は24歳、石川啄木は26歳、宮沢賢治でさえ37歳で亡くなっている。当時は結核で亡くなることが多かったとはいえやはり文章を書く仕事は健康にはよくないのだろう。
自分がかつてこの本に載っている作家たちの作品を読んだ頃のことを思い出しながら写真とその解説文を見ると、何とも言えない面白さがある。